日本では味わうことのできない 開放感と熱狂をつめ込んだ写真とコラム
今から24年前、まだ私が学生の頃、当時通っていた大学のジャズ・ビッグバンドが、山野楽器のコンテストで優勝し、そのご褒美で西海岸のモントレー・ジャズ・フェスティバルに招待された。団体行動が苦手な私は、小編成のコンボのジャズ研に在籍していたが、同時にカメラ・クラブにも所属し、写真も撮影していた。自分には音楽を演奏する才能は厳しいけれど、写真なら何とかなるかもしれないと、ボツボツ仕事をもらい始めていた。
ビッグバンドにも友人がいたので、彼らのアメリカ行きを羨ましく思い、さっそく帯同フォトグラファーとして売り込み、ラッキーにも同行することになる。そして2週間で15コンサートという、プロ顔負けのタイトなスケジュールをこなしたあと、居残った3人で北米大陸横断のグレイハウンド・バスに乗り、1週間かけてグランド・キャニオンなどをまわりながら、初めてニューヨークにやってきた。アメリカに行くなど夢にも考えていなかった当時20歳の私には、巨大な野外ジャズ・フェスティバルから、間近で有名ミュージシャンの演奏に触れられるジャズ・クラブと、カルチャー・ショックの嵐であり、またアメリカ音楽の懐の深さに触れる旅だった。中でもニューヨークで過ごしたエキサイティングな4日間は、私のその後の人生を大きく転換させ、1998年の秋に、ニューヨークに拠点を移した。そしてその翌夏、ニューヨークの夏のミュージック・シーンを初体験し、狭窄だった私の音楽観は、大きくエクスパンディングすることになる。
人種の坩堝、サラダ・ボール、メルティング・ポットといわれるニューヨーク。そこに住むさまざまなバック・グラウンドをもつ人々の数だけ、多彩な音楽も同居している。いつもは、知る人ぞ知るクラブや、大ホールなどで聞かれるライブ・コンサートが、夏になるとニューヨーク市内の公園で、毎日のように多くの無料コンサートが開催され、一大野外パーティーの様相を呈する。そこには日常の一服の清涼剤のように、人々の生活に密着した、あらゆる分野の音楽が存在している。そのクオリティは、世界中からトップ・ミュージシャンが集まるニューヨークだけあって高く、多くのニューヨーカーたちに囲まれて、純粋に音楽と開放的な雰囲気を楽しめる。
毎年6月になると発売される週間情報誌 ‘Time Out’ や ‘Village Voice’ の、サマー・コンサート特集号を入手し、熱い夏に思いを馳せ、プログラムをチェックする。今年は、どんな新しい音楽に出逢えるか、ワクワクする瞬間だ。音楽の熱病に酔って、かれこれ20年が過ぎてしまった。でも、まだまだ醒めそうもない。この本を片手に、夏のニューヨークを訪れる皆さまにも、この音楽熱が伝われば幸いです。
Let’s enjoy the summer music scene in New York City!
(「Prologue」より)